大阪から鎌倉へ転居して来て15年余りになる. 最初の印象は、何だか暗いなあ、というものだった.なぜなのか初めはわからなかったが、しばらくするとあることに気づいた.街行く人の服装の色合いが暗いのだ.渋いというのか、シックというのか・・・ 黒、グレー、茶色、ベージュが目立って多い. しかも、人間の多いことに目を見張るほどで、電車から流れ出る黒い行列は駅前にたまって、まさにありの行進のようにいろんな方向にぞろぞろ、ぞろぞろ・・・ こどもが小さかったので、学校の行事に出かけたり、新しい土地に来てあちこち観光して歩いたりするのに、いつも着ていた服を着ると何だか落ち着かない.自分だけ目立って、浮いた感じがする.なんとも居心地が悪く、当然何とかしようと考える.一番いい方法は「郷にいれば郷に従え」で回りの人と合わせればいいわけだ.だが、黒、グレー、茶色、ベージュなんて、いままでほとんど着たことがない. 大阪にいたころは、赤、緑、黄色、青といろんな色の服装をしていた.こんな風に字で書いてしまうと、まるで気狂いのようだが、何も一度に全部の色を着るわけではないので、誤解のなきよう! それでも、大勢の人がきれいな色の服を着るわけで、例えば参観日の教室の後ろは本当にカラフルな花畑のようになる.黒尽くめの人がいると、何か不幸があったのかと思ってしまう.黒っぽい服装の方が断然目立つのである. こちらの教室ときたら、黒、グレー、茶色、ベージュといった無彩色がほとんどで、まるで、お葬式とまでいかなくても法事かなにかのような感じがする. この中で、何とか目立たないようにするには、こちらも無彩色で勝負するしかない.茶色やベージュなどは、着たことのないものにとってはとても難しい色だ.きれいな鮮やかな色に慣れた顔は、病人のように見えてしまう.それに手持ちのワードローブには、それに合わせるものがない. となれば、黒を着るしかないのである.黒なら、相手を選ばず、何にでも合ってくれる.鮮やかな色にも合うし、グレーやベージュにだって合うのだ.そうやって15年経ってみると、たんすの中は黒ばかり、時々グレーも混ざっている.黒ばかりで、どれがどれだか出してみないとわからない.誠に不便である.カラフルな服が詰まっているころは、これはセーター、これはとっくり、このシャツは襟付きだったとか、こっちのは半袖だとか、一目で分かったのに. 冬になると最悪である.セーターは黒、スカートもパンツも黒、ジャケットもコートも黒.靴ももちろん黒なら、靴下も黒しか履けない.これでばっちり、「黒衣の女」が出来上がるのである.これならいつ、お葬式だ、お通夜だといっても大丈夫ではあるが・・・ これにはいくらなんでも、大阪人のおしゃれ根性が黙ってはいない.みんな似たような格好ばかりしているのに絶えられないのが、どうも大阪人らしい. 流行のものをみんなが一斉に着るのが関東風なのかどうかは知らないが、関西人は人と同じが気に食わないのである.流行を取り入れても、どこか自分らしい部分を主張するのだ.そこで、鮮やかな色のセーターを着てみたり、変わった生地やデザインの服を探してみたりする.これは!と気に入って着た時は、たいてい「変わった服を着ているね」とか、「服装ですぐ分かる」とかいわれてしまうのは、ちょっと心外だが.だが、これぞ大阪人の根性が残っている証拠ぞ、と最近はひらきなおっている. 東京から新幹線に乗って、大阪駅におりたつと、一挙に大阪の色の洪水に巻き込まれる.梅田へ出る電車に乗ると、なつかしいカラフルなファッションに囲まれてとても居心地がいいのだが、自分の服装はいつのまにか関東風になってしまっているのだ.そして大阪の繁華街に繰り出して、店を見て回るとほしいものだらけ.すっかり大阪モードになっていろいろ買い込んでくる. が、こちらへ帰ってくると、こんな服いつ着るの、ということになる.黒っぽい色を選んでも、デザインが変わっていたり、どこか一味違うのが大阪の特徴らしい.やっぱり、東西のファッションの格差はなかなか縮まらないようだ. そんなことを母と話していると、横で聞いていた父が一言つぶやいた. 大阪の雑踏が映るテレビ番組を見ると、最近は東京や横浜と余り変わりないように見える.おかしなもので、それはそれで歓迎すべきことなのかもしれないのだが、日々進歩する情報化時代にだんだん地域差がなくなりつつあるという事実に直面して、少しがっかりする. ただやっぱり違うなと思うのは、関西人は何かが流行してるといっても、みんな「右へ習え式」の流されかたはしない.流行を取り入れつつ、自分を主張しているように見えるのだが、これは身びいきというものだろうか? 関西人よ、どんどんわれら独自のおしゃれを楽しんで、元気に行きましょうよ! たまたま2000年の記念すべき年は、きれいな色の流行で街行く若者の服装もカラフル、お店にもきれいな色があふれている.特に若者向けのファッションは、それこそおもちゃ箱をひっくり返したような色の洪水. 今年こそは、あまり引け目を感じずに、本当に着たい色の服が着られるかな、と内心わくわくしている. 父の言によると、そろそろ関東も田舎から脱したのかな・・・! |
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